マックス保健所に泊まる

 マックスも今年9月で14歳。急速に年を取った。右目は白内障のためか、白く濁ってきた。散歩をしてもバタバタと扱けることが多い。さらに数年前からアトピーのためか腹や顔の毛が抜けだした。非常にかゆそうで年から年中掻き毟っている。寝ていても掻いている。もう生き地獄の様相である。病院にも連れて行ったが、体を頻繁に洗いなさいというだけで効果的な治療もない。夜中に悲鳴を上げることもある。こんなに苦しむのなら安楽死の選択も考えた方が良いかと思っていた。

 マックスの住処は南側で日当たりが良い。日当たりが良すぎて夏は直射日光が射すので日陰に行かせようとするが、住処以外には行きたがらない。体力も弱っているし、このままではこの夏を越すのは無理だろうと思い、夏になったら自由に日陰に行けるように練習のため夜は鎖を離してみた。当然、門扉は閉じている。1日目朝は、車庫の車の下に移動して寝ていた。住処以外の好きなところに移動することを覚えたら良いので大成功。

 ところが二日目の朝、家にいない。車庫の扉の下の隙間から外に出たらしい。出勤前に近所を探し回ったがいない。仕方なく会社に行ったら、妻から近くのマンションの駐車場で見つけたと連絡があった。一安心。夜、離しておくなら車庫に降りられないように邪魔板を置く必要がある。そう考えながら、適当な材料が無いので放置していた。

 6月30日(土)夕方、マックスの散歩から帰って、何とはなく紐を鎖につながずにおいた。心のどこかに残りの寿命も長くないだろうから行きたいところに行ったら良いという気持ちもあったかもしれない。逆に遠くまで歩ける体ではないので、外に行くこともないだろう、という思い込みもあった。翌7月1日(日)朝、マックスがどこにもいない。家の周りを探したがいない。何度となく、距離を広げて探したが見付からない。近所からの連絡もない。安楽死も考えていたが、実際にマックスがいなくなると寂しいものである。せめて最期は看取ってやりたい。7月2日の夕方、阿弥陀様にお願いをするのは、良くないことであるが、マックスが見付かりますようにとお願いをして、その後、インターネットで念のために調べてみると保健所の保護犬の写真の中にそっくりの犬が。雑種と表示されているが、マックスは柴犬の規格を少し外れているのでしようがないか。マックスは、2日に家から1km以上離れた空家の庭にうずくまっているところを近くの人が通報して捕獲されたらしい。

 7月3日、昼から会社を休んで保健所にマックスを引き取りに行く。土曜までに引き取らなければ、殺されるところだった。マックスの一泊料金や手続き代金を支払って引き取る。こんな時のために鑑札を首輪に付けておけばよいのであるが、鑑札の大きさが大きすぎて、首輪に装着していなかった。

 保健所から帰ってからは、体調も幾分良好で餌も良く食べるようになった。しかし、目も弱り、耳も弱り、足腰も弱ってきた。右後ろ脚の内股に大きなこぶ状の袋が出来ているので癌かもしれない。これまでは病院へもせっせと連れて行ったが、もう病院へ連れて行く気はない。人間も治療せずに最期は家で死ぬのが自然だと思うのでマックスもそうする。私の曾爺さん辺りまでは、死ぬ数日前まで仕事や身の回りのことを自分でして、どうも体がおかしいと感じたら身辺整理をして、数日から10日程静かに寝込んでそのまま息を引き取ったと聞いている。昔は人が死ぬのは普通のことだった。農繁期は農業優先だから病気になっても田植えや稲刈りが終わるまで病院に連れて行かなかった。私の叔母も従弟もそういう事情で十代で亡くなっている。

 マックスも現代人と同じで苦しみながら老年を過ごしている。かわいそうに思う。

(2012年7月29日 記)

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